枝くんは同じ芸術学専攻の同期である。 僕は1浪、彼は2浪だったが、 のちに4浪であることが発覚した。 発覚したところでどうということもなかった。
彼とは相当長い時間を一緒に過ごしたが、 芸術や美術に関心を見せたことが一度もない。 彼が感情を見せたのは、共に留年した5年生の時、 大三元字一色のダブル役満を上がった瞬間のみである。
ずっと美術部に在籍していたが、一枚も絵は描かなかった。 氷河期の就職活動中、実家近くの火山が噴火、大学を辞めて北海道へ帰郷した。 その後、彼に会いにいった後輩が、 「枝さんは聖書を売る人になっていました」 という情報を与えたきり、行方は杳としてしれない。
あれからとうに20年が経つ。 生死も不明であるが、仲間内で集まると必ず彼の話になる。 そのたびみんなで「あいつ探そうぜ」と盛り上がるが、 誰も探さない。
僕の数少ない同性の友人である。




