連作:トオイヒビ

記憶に薄ついてどうしても忘れられない小さな美しい景色を、自分が老いてしまう前に描き留めておきたくて。

たくさん話したことよりも、どうしても話せなかった瞬間。 楽しく遊んだことよりも、気まずくて黙り込んでしまった瞬間。

お互いが既に了解していながら、 踏み出すことができないその時間。

僕はきらきらと輝いた宝石のような時間よりも、 果てしない戸惑いと葛藤の中で 折り合いをつけることもできず、 誰かのことを思うしがらみに縛られ

背中合わせにうつむくしかなかった時間を 何よりも美しかったと思っているのです。

初めて奥崎の下宿に行った時、 玄関から何からモノが積み上がっていて そこら中に拾ってきた流木やら石が転がっている状態だったが

僕が嬉しかったのは、 僕が来るからと言ってかたづけたりしない そういう奥崎を知ったことだった。