もう先輩がどんな声をしていたのか、あまり思い出せない。 いつも僕ばかりしゃべっていたからかもしれない。
高くも低くもなく、 速くも遅くもなかった。
「ん?」という気のない返事だけが 記憶に残っている。
先輩はたくさんのことを教えてくれたが、 先生のように教えてくれたわけではない。 本人もそんなに僕に影響を与えたとは思っていないだろう。
勝手に僕がついてまわって、 先輩の読むもの、見るもの、聞くものを 真似していただけの話だ。
幸せだった。 誰かに強い影響を受け、盲信することが。
先輩以降約30年、僕はそんなにも誰かを盲信したことはない。
