96年はまだ朝までやっている喫茶店が駅前にも国道にもあった。 だから「そんな」気分の夜には、そこら中に逃げ込める場所があった。

僕は考え事をするのが好きで、 喫茶店で本を読むことはあんまりなかった。 ただずうっと考え事をしている。 いや、何も考えてなかったかもしれない。

ただ何かを思っている、 それだけだった。

黙っている先輩が何を考えているのか僕にはわからない。 先輩も僕の考えていることはわからない。

わかる必要は特になかった。 わかって欲しいことはもうわかっていたから。

でもタバコは必要だった。 この空間にはどうしても必要だったんだ。

そう思い出話を書いて気づいたが、 今は一つも実現できないことばかりだ。

午前2時、音楽も話し声も聞こえない古びた喫茶店で、 タバコを吸いながら二人して黙っている。

もう二度とそんな場面は僕の残りの人生に訪れない。