ある脳の障害によって、何十年経っても見たものを見たまま描ける特殊な能力は存在する。 それが羨ましいかと言われると、わからない。 見たものを見たまま描く行為に自我はあるんだろうか。

誰でも鮮明に覚えている光景がある。 鮮明に覚えているのに、絵で描くと下手すぎて誰にも伝わらなかったりする。 あれを不思議だと思ったことはない? 僕は子どもの頃からずっと不思議だった。

頭の中にあるものを形にするには技術を習得する努力が必要だ。 でも感動があり、記憶があり、そこからスタートすれば技術の習得は大した問題ではない。

技術は必ず劣化する。 思い出は劣化しない。 むしろ美化していく。

美化、つまり美しいものへと変わっていくなら、 それが一番描かなければいけないものだと思う。 僕は美しいものだけが好きだからだ。